2016年3月10日木曜日

ソフォクレース『アンティゴネー』


ギリシャ悲劇、ソフォクレースの『アンティゴネー』(岩波文庫、2014)を読みました。今までに読もうとしては忘れるということを繰り返してきたため、あらためて我が家の本棚を探すと旧版と新版の2冊あったのですが、今回は先に見つけた新版をチョイス。

有名なオイディプス王の娘であるアンティゴネーと、オイディプスを追放することでテーバイの王になったクレオーンの2人が主軸の登場人物。オイディプスの死後、クレオーンの統治するテーバイに攻め寄り討ち死にした、アンティゴネーの次兄ポリュネイケースの埋葬の是非をめぐるやり取りが描かれます。ソフォクレスによる、オイディプスに関連する他の2作を知ってると尚のこと良いのかもしれませんが、文庫には分かりやすい解説も載っており、これだけ読んでも充分に面白かったです。

国に叛逆した人間の埋葬を禁じる現行の王クレオーンの主張と、近親者、あるいは言い換えれば愛する人、を弔う道理を主張するアンティゴネー。折り合うことのない二人の会話は、折り合う事がないためにむしろ会話としてのチカラ、緊張感がみなぎっています。複数の異なる人間が行うものである以上、あらゆる会話とは根本的に悲劇的であるのかも、などなど思ってみたり。

国家と戦争と追悼。最近の翻訳なので当然かもしれませんが、読んですごく現代的な話と受け取りました。しかし実際書かれたのは紀元前400年代中頃。日本は弥生時代ちょっと手前でしょうか(←後述ですが、弥生時代のはじまりはもっと遡る可能性が大いにあるようです。失礼!)。そもそも、まだ日本などとは呼ばれていません。ギリシャの劇場でこの演目が上演されていた頃、この列島周辺で一体どのような会話が、どのような言葉で為されていたのか。全くもって僕には魅惑的に謎だらけですが、人間が暮らし会話を交わしていたわけですから、沢山のアンティゴネー的な人物と、そんな彼女や彼の弔いを受ける、いっそう沢山の死者たちがいたことが想起されます。

まもなく、東日本太平洋岸を襲った地震、津波から5年が経とうとしています。あらためて、亡くなられた方々の冥福をお祈りします。