ひとまず冒険小説ぽい筋をキーにしながら、多くの人物(と、少しの犬)が入り乱れまくるとことんまで過剰な「物語」と、上からどんどん塗り重ねられて行くような「描写」の数々。偶然(の仲間←そういう団体が出てきます)と必然(的な歴史、来たるべき戦争)が錯綜し、どっちがどっちだか分からなくなりながら、あっという間に結末近くまで辿り着いてしまうと、著者が小説を終わらせているという事実に対して、少し困惑を覚えてしまうほどでした。個人的には巻末、本当に最後の文章で繰り出される一つの言葉を目撃するに至り、唖然とするほかなく、色んなもんをどこかへ持って行かれた次第です....寄る辺なくも素晴らしい喪失感!最後のその言葉がどんなかは、皆様是非ご自分の目でお確かめ下さい!その一語は、人によっては大した感慨もないとは思いますが、小説そのものは、繰り返しますけど、間違いなくすごく面白かったです!
それでそれから数日が過ぎた夜、読後の余韻から覚めないまま、下高井戸シネマのレイトでやっていたフリッツ・ラング特集のうち、『マンハント』(1941)と『外套と短剣』(1946)を見てきました。以前からずっと見たかった映画で、こちらも非常に良かったです。しかしどうしてこの事をピンチョンの小説について書いてる所に続けているかといいますと、第二次大戦前後を舞台にしたフリッツ・ラングのこの二本のスパイ映画が、第一次大戦前後が舞台である『逆光』(スパイ小説でもあります。)の、その後の世界を描いているように見えてしまったからであります。50年以上も古いフリッツ・ラングの映画が、『逆光』の世界の未来を担うという構図にとても感動しました。思えばドイツ時代の『メトロポリス』(1927)や『スピオーネ』(1928)、それから合衆国亡命後の今回の二本や『暗黒街の弾痕』(1937)などなど、見たことのある彼の映画は全てタイトルを『Against The Day』に置き換えられるんじゃなかろうか、という気さえしています。彼の人生の足取りそのものがAgainst The Dayなのかもしれません。見習おうと思います。